薬としての食品:コリアンダー
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第192回目の話題:薬としての食品:コリアンダー”です。ABCのHerbalEGramの記事シリーズの“Food as Medicine”により取り上げられた植物を紹介しています。今回は、”コリアンダー(パクチー)“です。
<原文翻訳>
歴史および伝統的な使用
生息範囲
Coriandrum sativumは一般的にはコリアンダーお呼びでシラントロの名前で知られている、セリ科(または人参科)の仲間の明るい緑色の草本である。多くの場合1年草として栽培され、細い、中空の茎は高さ数フィートに達する可能性がある。茎は光沢のある芳香性で先の裂けた葉をもち、淡いピンクまたは白色の散形花序の花をつける。1,2,3 コリアンダーは東地中海地域や西アジア原産であり、一般的にその芳香のある葉や種子のために、世界のすべての地域で栽培されている。植物の葉は、歴史的に、アジア、インド、メキシコ、スペイン、アメリカ、中東の料理に使用されてきた。2コリアンダーの種子は球状で香があり少しほろ苦い味を持っており、重要な料理用スパイスとして使用の長い歴史を持っている。国際的には、インドが最大の生産国、消費国であり、コリアンダーシードの輸出国である。総生産量のわずか10〜15%が輸出されており、残りは国内で消費されている。4
植物化学物質と成分
コリアンダーの種子は、健康上の効果が証明された異なった何種類かの揮発性油を含んでいる。コリアンダー種子は脂肪油成分を25%含んでおり、多量のpetroselenic酸およびより少量のω-6必須脂肪酸であるリノール酸からなる。5 コリアンダー種子油は、強力な細胞の酸化防止だけでなくコリアンダーの心地よい香りの源であるテルペノイドのリナロールを60-70%含んでいる。スパイスや種子は人間の食事中の脂肪酸の重要な供給源を代表しており、取不足は、炎症や皮膚炎の症状をもたらす可能性がある。6精油に加えて、種子には、糖、アルカロイド、フラボン、樹脂、タンニン、アントラキノン、ステロール、および固定油が含まれる。7,8
コリアンダーのアルコール抽出物は、他の市販の抗酸化物質に匹敵する抗酸化作用を生み出す。その葉にはほとんどそのフェノリック成分のために、種子よりより抗酸化活性があるように思われる。コリアンダーの葉は、有益なフラボノイド、ポリフェノール、およびフェノール酸が含まれている。存在するポリフェノールはまた、抗酸化剤及び抗炎症効果を有することが示されているケンフェロール及びケルセチンを含んでいる。フェノール酸には、カフェ酸、protocathenic酸、グリシチン、及びバニリン酸が含まれる。5 これらの植物の二次代謝物は、冠状動脈性心臓病、脳卒中、および癌を含む酸化による損傷および関連疾患に対するそれらの潜在的な防護効果のために興味が増しており、研究されている。9植物の葉は、ビタミンA、K、およびC、ならびにカルシウムを高濃度で含有している。2
歴史的および商業的用途
コリアンダーは、BCE7000もの新石器時代にさかのぼる使用の長い歴史を持っている。7コリアンダーについての言及は、古代インドのサンスクリット語のテキスト、旧約聖書、エジプトパピルスの巻物に記載されている。3 Coriandrum sativumは紀元前2千年前よりギリシャで栽培されている。その種子は香水で使用され、種子と葉の両方が料理に使用されていた。8
伝統的中国医学とアーユルヴェーダ医学の両方で、その種子は消化薬、駆風薬、または健胃薬として使用されていた。8 アーユルヴェーダ医学では、種子はキャラウェイ(Carum carv)、カルダモン(Elettaria cardamomum)種子あるいはキャラウェー、フェンネル((Foeniculum vulgare)、およびアニス(アニス)と組み合わされて、ヨーロッパ医学での消化障害の治療に使用された。5,10
C. sativumの葉は、伝統的に胃腸の痙攣、消化不良、食欲刺激剤などの一般的な消化器系の症状のために使用されている。5 コリアンダーは、その豊富な精油成分により、駆風薬、健胃薬、鎮痙薬として作用することが報告されている。10葉の調剤はまた、咳や胸の痛みを治療するために、外用で胸に注入、適用される。
C. sativumの種子は、消化不良、嘔吐、下痢および赤痢などの胃腸障害を治療するため;咳や気管支炎のための鎮痙薬や去痰薬;そして局所的には関節炎やリウマチのための抗炎症軟膏、スキンケアおよび化粧品など;に使用されてきた。5イランの伝統医学では、コリアンダーはの種子は、主に不安や不眠を治療するために使用された。伝統的な種子粉末の投与量は、1日3回、1グラムから5グラム、である。この投与量は150ポンドの個人で71ミリグラム/ kg、1日に3回、に変換される。8
現在、コリアンダーシードはドイツでは薬用茶として使用されており、様々な下剤および駆風薬処方で見つけることができる。コリアンダーの駆風薬と刺激剤の効果は英国ハーブ薬局方とドイツコミッションEモノグラフ、に記載されている;Wichtl’s Herbal Drugs and Phytopharmaceuticalsは、健胃、鎮痙、および駆風剤としてコリアンダーの使用を確認し、また、その脂質低下作用およびインスリン様活性を指摘している。11種子はカレー粉や他の多くのスパイスの混合物の一般的な構成要素である。それらはまたは、フレーバージンやシャルトリューズやベネディクトなど他のリキュールに使用されている。2
現代の研究
コリアンダー植物の種子は、多くの研究で血糖値を低下させ、インスリン抵抗性を減少させることが示されている。12-14 この効果は、おそらく種子中に存在するフラボノイドおよびポリフェノールによるものである。研究はまた、種子は、心臓の健康のためには有益ある、コレステロール値を下げる可能性があることを示している。いくつかの動物研究では、コリアンダーの種子抽出物が、ラットでの、LDLコレステロール、トリグリセリド、および総コレステロールを減少させた。12抽出物はまた、HDLコレステロール( "善玉"コレステロール)を増加させた。15
コリアンダーの種子中に存在する成分と植物化学物質は、アロマセラピートリートメントの人気の成分である。吸入時リナロール、コリアンダー種子中で最も豊富なテルペノイドであるリナロールは、ラットにおける吸入使用において、ストレス誘発性の作用を抑制した。16コリアンダー種子抽出物はまた、穏やかな鎮静作用を有することが示されており、軽度の不安や不眠症を治療するためのその適合性について研究されている。その抽出物は、マウスにおいて、睡眠時間を増加させた。17別の研究において、種子抽出物は、ストレスの多い環境にさらされたマウスにおいて、不安を減少させ、筋肉をリラックスさせることが判明した。研究者はそのことについて、抽出物中のポリフェノールのケルセチンおよびイソケルセチンの存在に関係づけている。18 一方、動物実験の結果は有望であるが、コリアンダーシードの抗不安、緩和特性、および不眠症においての睡眠を促進するためのその潜在性については、ヒトでの臨床試験は存在していないようである。
コリアンダー植物の葉は、関節炎の人々の症状を減少させることが示されている。研究者は、この抗酸化作用を、葉に存在する、ビタミンA、C、フェノール酸、およびポリフェノールと関連付けて考えている。19葉のフェノール成分、特にエタノール抽出物は、ラットにおいて肝臓損傷から保護することが示されている。20
コリアンダーの種子から得られる希釈した精油の局所使用は、良好な忍容性および、Streptococcus pyogenes(化膿連鎖球菌)に関連づけられる表在性皮膚感染症および浸出性皮膚炎の治療に有効であることが明らかにされている。標準的な寒天希釈法を使用して、コリアンダー種子油はまた、黄色ブドウ球菌、S。溶血、緑膿菌、大腸菌、およびリステリア菌を阻害することが示されている。8 アルデヒドを含むコリアンダーリーフ油は、カンジダ属、S. 球菌、チフス菌、豚コレラ菌、および他の細菌に有効である。
コリアンダーやコリアンダーの葉を使用は、「キレート化」として知られるプロセスである体から蓄積された重金属、特に水銀を除去することができるハーブとして誤って宣伝されてきた。しかし、科学的または臨床的証拠は、これらの主張をサポートしていない。8 一部の前臨床的な証拠は、重金属レベルが高いと考えられる食品の消費中のコリアンダーの葉の併用が、毒素や潜在的な毒性作用の吸収を減らす可能性があることをししゅんしている。しかし、コリアンダーが身体内に既に存在する重金属を除去することができるという理論は支持されていない。魚介類のようなしばしば水銀を含んだ食品と同時にコリアンダーの葉をベースとしたペスト、サルサ、またはチャツネなどの摂取は、潜在的に体内の重金属の吸収を減少させる可能性がある。これらの知見を確認し、適切な投薬量を決定するためには、さらにより多くの研究が必要である。8
栄養特性: ( 20 g 当り[約. コリアンダー9本] )
5 カロリー
0.43 g タンパク質
0.73 g 糖質
0.1 g 脂質
二次代謝産物: ( 20 g 当り[約. コリアンダー9本] )
主要要素:
ビタミンK: 62 mcg (77.5% DV)
ビタミンA: 1350 IU (27% DV)
微量要素:
ビタミン C: 5.4 mg (9% DV)
微量:
カリウム: 104 mg (3% DV)
葉酸: 12 mcg (3% DV)
繊維質: 0.6 g (2.4% DV)
鉄: 0.35 mg (1.94% DV)
ビタミン E: 0.5 mg (1.67% DV)
ビタミン B6: 0.03 mg (1.5%DV)
カルシウム: 13 mg (1.3% DV)
マグネシウム: 5 mg (1.25% DV)
ナイアシン: 0.22 mg (1.1% DV)
リン: 10 mg (1% DV)
DV = Daily Value as established by the US Food and Drug Administration, based on a 2,000 calorie diet.
(米国食品医薬品局による1日食事2000カロリーあたりの必要量)
<原文>
http://cms.herbalgram.org/heg/volume12/06June/June2015_FaM.html
Food As Medicine:
Coriander/Cilantro (Coriandrum sativum, Apiaceae)
—Hannah Bauman
<訳者注>
コリアンダー(coriander、学名:Coriandrum sativum L.)はセリ科の一年草です。パクチー、シャンツァイ (香菜)、中国パセリなどの呼び名でもよく知られています。 地中海東部原産で、各地で古くから食用とされてきました。高さ25 cm程度で、葉や茎に独特の芳香で知られてます。また、熟した果実にはレモンにも似た香りがあります。
コリアンダーは薬草としての長い歴史がありますが、中華料理、タイ料理、インド料理、ベトナム料理、メキシコ料理、ポルトガル料理など、食材としても各地の料理で幅広く広く用いられています。
以下はウイキペデキア日本語版からの抜粋です。
『中国では香菜(シアンツァイ、中国語: xiāngcài)と呼ばれスープ、麺類、粥、鍋料理などの風味付けに利用される他、東北地方には「老虎菜」(ラオフーツァイ)というキュウリ、青唐辛子(レシピによってはピーマンで代用される)と共にサラダの様に生食する郷土料理もある。北魏時代の斉民要術に密植による軟化栽培の方法が記されている。
タイではパクチーと呼ばれ、トムヤムクンなどのスープやタイスキをはじめとしたさまざまな料理の薬味に用いられる。
ベトナムではザウムイ(ベトナム語: rau mùi)と呼ばれ、本場の生春巻きやフォーには欠かせない食材となっている。
中南米ではクラントロ(スペイン語: culantro)と呼ばれ、スープやサルサなどに広く用いられる。
アメリカ合衆国ではメキシコからの移民が多く、英語のコリアンダーよりもスペイン語のクラントロに影響を受けた「シラントロ」(Cilantro)の方が一般的な呼称となっている。
ポルトガルではコエントロ(ポルトガル語: coentro)と呼ばれ、魚介類と野菜を主な材料とする鍋料理であるカタプラーナなどの郷土料理によく用いられる。ポルトガル料理の味を特徴づける重要な食材である。
インドではダニヤー(ヒンディー語: धनिया ; dhaniyā)と呼び、カレーにもよく使われるスパイスのひとつである。』
日本に伝わったのは平安時代とされています。927年に書かれた書物「延喜式」に「胡づい」という名が記載されています。その後、江戸時代になってポルトガル人から再び伝えられ、薬として使われていたようですが、食材としては定着しなかったようです。そのため日本では従来馴染みが薄く、和食などに用いられていませんでしたが、近年のエスニック食ブームでにわかに注目を集めるようになり最近では愛好者が増えています。現代の日本では一般的に、食用として葉や茎を利用する場合は“パクチー”、スパイスとして種子を利用する場合は“コリアンダー”と呼ばれているようです。
コリアンダーは、古代からの薬草としての古い歴史を持っています。王立園芸協会の“ハーブ大百科”には、
『軽い消化管器機能不全に内服する。外用薬として内痔核、関節炎に種子が有効である。』
中国に薬用、食用として伝わったのはBC600年頃とされており、その全草を“胡荽(コズイ)”種子を“胡荽子(コズイシ)”と言います。種子には、健胃・駆風作用があるとされており、“牧野和漢薬草大図鑑”にもその記載があります。
記 阿部俊暢
<原文参考文献>
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