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阿部俊暢

宮城県仙台市出身。定禅寺通りのけやき並木と同じ1958年生まれ。2003年阿部代表とともに定禅寺ハーブギャラリーを開業。夢は世界中のハーブを集めたハーブ農場の開設。JAMHA認定ハーバルセラピスト、AEAJ認定アロマテラピーインストラクター。

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2012年4月

2012年4月27日 (金)

有用な薬用植物(メデイカルプラント)の絶滅の危機

ハーブ•アロマテラピーを学ぶ方のための海外ハーブ事情、
第五回目の話題: “重要な医薬品成分を含む植物の絶滅の危機”
 今回は、貴重な医薬品の成分を含む植物(イチイ)の絶滅の危機についてです。米国植物協議会 The American Botanical Council(通称「ABC」)の(ABC HerbalEGram2012年1月号)の記事よりお届けまします。
http://cms.herbalgram.org/heg/volume9/January2012.html

以下抜粋:
【IUCNレッドリストの更新、タキソールを蔵する木のリスク増加】
 
 011年11月、国際自然保護連合(IUCN)は、絶滅危惧種のレットリスト*1を更新し、いくつかの重要な薬草種を含む、いくつかの植物が直面する脅威の増大を文書化した。IUCNはそのレッドリストを「動植物の種の世界的な保護状況に関する、世界で最も包括的な情報源」だと記述する
 レッドリストでは、IUCNと、キュー王立植物園(イギリス)のようなパートナー組織が、8つの絶滅の危険性のレベルを考慮して、数千の植物や動物の種を評価している。8つのリスクレベルは、次のように分類される。データ欠損、低リスク、危急、危惧、絶滅危機、絶滅寸前、野生絶滅、そして絶滅した、である。 分類プロセスで考慮された要因は、個体数動向、個体数規模と構造、および地理的範囲が含まれている。
 更新されたレッドリストは、貴重な薬用植物、Taxus contorta、アフガニスタン、パキスタン、ネパール西部、と北西インドで成長するイチイの木の種、が直面する脅威の増大を記録している。T. contorta-、-この樹皮には抗がん化合物のパクリタキセル(商品名タキソール)が 含まれている-は、以前の分類の危具から、絶滅危機分類に危機が増加したとして記載されている。 IUCNは、書いている。T. contortaの分類は、 "医療用途のための乱獲と薪や飼料用の過剰採取によって"変更された。
 1971年に、マンスク.ワニ博士とモンローウォール博士は、太平洋イチイ(T. brevifolia)、米国の太平洋岸北西部に自生する小さな木の樹皮から二次代謝産物タキソールを単離した。1992年に、米国食品医薬品局(FDA)は、卵巣癌患者への使用についてタキソールを承認した。米国植物協議会が1997年に、"部分的または完全緩和の多数の例が。" 存在すると報告したように、薬は非常に成功した。その後、FDAは乳癌、肺癌、前立腺癌の治療に使用するためにタキソールを承認した。
 タキソールの薬効の可能性の知識は、広範な木の伐採、同様に樹皮の収穫、など木に深刻な害を与える作業により、野生の太平洋イチイの木の個体数の大幅な減少を導いた。研究者は他のイチイの樹種でタキソールを探し始めた、それにより、現在ではT. contortaを含む全部で11種類が、タキソールに変換することができるタキソールまたは中間体化合物のいずれかを含んでいることが知られている。ヨーロッパイチイ(T. baccata)のようなこれらの種のいくつかは、再生可能な針状葉や真菌でこれらの化合物を得る一方、多くのT contorta集団の場合のように、樹皮はまだよく収穫されている 。
 比較的大規模な分布域をカバーするにもかかわらず、T. contortaの集団は、小さくて、遺伝的に孤立しており、衰退する針葉樹林生息地に限定されている。アフガニスタンでの生息地の50%と北西インド、ネパール西部の生息域の90%が破壊された。 パキスタンの生息地の約80%も乱獲から減少している。
 現在の科学によると、イチイの木の集団への依存の代替えのために合成タキソールを使用することは、現実的な代替手段ではない。 ある研究者は述べている。 "イチイの木から細胞培養を含む現在市販されているタキソールの製造方法は、可能性の高い新しいどんな合成法よりも経済的である。“
 IUCNのレッドリストのユニットマネージャー、クレイグ·ヒルトン·テイラー、のイギリスの新聞ガーディアン紙とのインタビューによると、 "間伐からタキソールを抽出することが可能であり、適切に制御する場合、その収穫は植物にあまり害を与えません。収穫と取引はそれが持続可能であることを確認するように慎重に制御する必要がありますが、植物もまた、野生個体群の収穫による影響を軽減するための育成で栽培されるべきです。

-リンジー·スタッフォード


解説:
 今回の話題は、貴重な医薬品の成分を含有する植物の乱獲による絶滅の危機についてです。
 タキソール(一般名パクリタキセル)は乳がんや肺がんの治療に併用療法の有効性が認められたイチイの樹皮成分から見つかった抗がん剤です。記事にもあるように非常に成功した薬剤として知られており、現在でも様々な可能性が研究されています。単独投与でも効果が認められていますが、 従来の抗がん剤との併用療法も行われており、 乳がんの術後化学療法では標準的な治療法の一つになりました。日本でも広く行われるようになっています。
 このタキソールの成功が、植物に悲劇をもたらしているというのは、皮肉な話です。最初に成分が発見された太平イチイ(T. brevifolia)は深刻な影響を受け、現在はその近縁種に影響が広がっています。記事にもあるように、成分を含む近縁種11種類が知られています。日本に生育する近縁種イチイ(T.cuspidata Siebold et Zucc)は、その葉(生薬名一位葉)が通経、利尿薬とされています。タキソールについての記述はみつけることができませんでした。下はネットでみつけたイチイについてのリンクです。
http://www.niah.affrc.go.jp/disease/poisoning/plants/yew.html

 “有用な植物をもとめて世界中を探しまわる”。これは、大英帝国のプラントハンター*2を連想させます。プラントハンターといえば、広大な植物園やガーデンが思い浮かびますが、プラントハンターたちの本来の仕事は自国にガーデン熱を広めることではありませんでした。彼らが世界中から持ち帰った植物により、インドの紅茶産業やマレーシアのゴムプランテーションなどが発展し、英国に莫大な富をもたらしました。コーヒー、綿花、サトウキビ、タバコ、カカオ、油やし、などもまた、戦略的商品作物として、プラントハンダーたちに開発され、大量栽培に成功した植物です。一方、この開発が熱帯雨林や地域社会の破壊などを引き起こし、現在の経済の南北格差問題の一因となったという指摘もあります。歴史はまた繰り返すのでしょうか?メデイカルハーブ(薬用植物)の使用ということは、単に“個人の健康問題”ではなく、“地球規模の様々な問題に”つながっているということを思わずにはいられません。
                            記 阿部俊暢


*1レッドリスト
 最初のレッドリストは、1966年に、国際的な自然保護団体である国際自然保護連合(IUCN)によって作成されたものである。その後、各国の所管政府機関(日本では環境省)や地方自治体(日本では主に都道府県)、学術団体(日本自然保護協会、日本哺乳類学会等)などによって、同様のリストが独自に作成され、これらもレッドリストの名で呼ばれている。これらの多くは、IUCN 版のカテゴリーに準拠した形で作られている。
レッドリストを公表後、掲載種の生態、分布、現在の生育状況、絶滅の要因などのより詳細な情報を盛り込まれたレッドデータブックが作成される。

* 2プラントハンター
 (英: Plant hunter)とは、17世紀から20世紀中期にかけてヨーロッパで活躍した職業で、食料・香料・薬・繊維等に利用される有用植物や、観賞用植物の新種を求め世界中を探検・冒険する人のこと。